陸上競技女子やり投げの北口榛花選手が、世界の頂点に立つまでの道のりには、驚くべき筋肉改革があった。2023年、世界選手権で金メダルを獲得し、ダイヤモンドリーグでも優勝を果たした北口選手。その背後には、自身の体と真摯に向き合い、大胆な改革を行った努力の軌跡が隠されていた。
世界への挑戦と壁
北口選手は1998年3月16日、北海道旭川市に生まれで、幼少期から水泳やバドミントンで頭角を現し、高校進学と同時に陸上競技を始めて、わずか2か月でやり投げの北海道大会を制覇し、2年生で全国高等学校総合体育大会で優勝するなど、その才能は早くから開花。
また2015年には日本陸上競技連盟の「ダイヤモンドアスリート」に認定され、将来を嘱望された。しかし、2016年に左肘の靭帯損傷を経験。その後もコーチ不在の時期を経験するなど、挫折を味わった。
北口榛花を苦しめた元コーチ
「当時の北口は、どこの大学でも行きたいところに進学できた状態でした。そこで彼女が選んだのは日本大学。かの村上幸史の指導が受けられる、というのが決め手でした」(中略)
ところが、である。今から5年前、北口が大学2年になった17年4月、彼女を指導する村上が週刊文春の好餌となったのだ>
この17年の「五輪やり投げ・村上幸史 妻へのDVと不倫訴訟」という記事は、「週刊文春」(文藝春秋)時代に筆者が担当した記事だった。週刊誌で不倫騒動を記事にすることは多いが、そのなかでも村上氏の素行や泥沼不倫ぶりについては際立つものがあったといえる。
引用:ビジネスジャーナル
転機は2019年、チェコ人のコーチであるデイビッド・セケラックとの出会いだった。北口選手は単身チェコに渡り、二人三脚での武者修行を開始。その結果、同年10月には66m00の日本記録を樹立した。
David SEKERAK 1974年、チェコスロバキア(93年にチェコとスロバキアに分離)生まれ。世界陸連の公式サイトによると、やり投げの自己ベストは74メートル50で、五輪出場歴はない。砲丸投げにも取り組んだ。コーチ業とは別に、印刷会社を経営している。
引用:読売新聞オンライン
筋肉との格闘
北口選手は、身長179cmと体格的には恵まれているが、2020年秋頃は体を上手く使えず、「宝の持ち腐れ」のような状態だったという。当初は猫背気味で、やや前かがみの姿勢が身についていたそうです。 やり投げには胴体のひねりが特に重要であり、この姿勢は投てきに悪影響を及ぼしていたとされています。
コーチの最初のアドバイスは、走り方の改善だった。上肢と下肢の協調、腰のひねりがスムーズにできるよう、階段の昇り降りや大きな歩幅での走行など、基本的な動作から見直していった。
19年から単身で渡った拠点のチェコでは、柔軟性をより高めたりリラックスするという意味で、セケラクコーチに週1回は泳ぐようにと言われている。だが、「なんとなくではなく、目的を持ってやりたい」と考えた。熱意に背中を押され、始まった“松田塾”。最初のレッスンは21年10月。北口は中学時代、競泳で全国大会に出場した経験があった。泳ぎの第一印象は「うまい。柔軟性がある」と松田さん。基礎がある中で、特に鍛錬を求められたのはバタフライだった。
北口「やり投げは体を反りながら腕を回す。バタフライも同じような動き」
北口はチェコに戻った後も競泳練習を継続。成果の一端は昨年8月に初制覇した世界選手権でも表れた。同年12月には2回目のレッスン。松田さんは「1種目では気がつけない体のバランスや凝りに気がつくことができる」と自由形、背泳ぎ、平泳ぎも加えた4泳法を指導した。競泳選手が使う練習用具一式を用意し、板を使った練習や競泳選手のウォーミングアップを教えた。北口も「あとはやり投げ(の練習)に組み合わせていく」と競泳式強化のコツをつかんだ。
引用:スポーツ報知(https://hochi.news/articles/20240721-OHT1T51286.html?page=1)
しかし、2023年6月の日本選手権での敗北が、新たな転機となった。北口選手とコーチは、それまでの練習方法や質を総点検。その結果、日々のウエイトトレーニングによって筋肉がつきすぎ、持ち前の肩の可動域の広さを生かしたしなやかな投てきが失われていると分析した。
大胆な決断
北口選手は、シーズン中にもかかわらず、練習方法の大幅な変更を決断した。ウエイトトレーニングを減らし、コンディションの調整に焦点を当てた。「筋肉がつきすぎる、無駄なところにつきすぎたというところと、あとはその筋肉の質がちょっと硬くなりすぎた」と北口選手は自身を振りかえり「たぶん、あのままいっていたら、どんどん投げられなくなっていたので、ウエイトトレーニングを抑えるという決断ができたことが一番。今シーズンは、そういう決断ができたことが大きいかな」と、その決断の重要性を強調した。
驚異的な成果
この大胆な改革は、驚くべき成果をもたらした。日本選手権で敗れてから3か月弱の限られた時間で、北口選手は体のコンディションを修正。フォームもピタリと合わせ、8月の世界選手権で金メダルを獲得した。
特に注目すべきは、その優勝の仕方だ。4位で迎えた最終6回目の投てきで、66メートル73センチのビッグスローを見せ、一気に首位に立った。極限の状態で、これ以上ない集中力を発揮したことだろう。「私も初めての経験なので、これがゾーンなのかどうかわからないんですけど。本当にとにかく集中はしていたと思います」と北口選手は振り返る。
さらに、世界最高峰の大会「ダイヤモンドリーグ」のファイナルでも頂点に立ち、世界のトップアスリートとしての地位を揺るぎないものにした。
金メダル獲得!感動をありがとう!!
女子やり投げ予選の1投目で62M58を投げ、予選通過となる62Mを超え2大会連続の決勝進出を決めました。投げ終えるとコーチに向かいガッツポーズを披露。北口選手は全体7位で見事予選通過を果たした。また上田百寧選手(ゼンリン)も12位で予選通過を果たしております。気になる決勝は8月10日です。
北口「決勝は今シーズンベストを」
北口選手は「今回のスタジアムでは当日しか練習できないので、練習の意味でもう少し投げたい気持ちもあったが、目標は1回で62メートル50センチを超えることだったので、超えられてよかった」としたうえで「初めて観客のいるオリンピックを経験したが、たくさんの観客が入っていてすごく幸せで楽しく試合ができている」と話していました。また「本番は決勝なのでしっかり修正して臨みたい。予選を見ていても仕上げてきている選手はかなり仕上げてきていると感じるので、決勝ではしっかりと今シーズンのベストを更新したいし、いい勝負をしたい」と意気込みを見せていました。 引用:NHK Web
8月10日 やり投げ決勝に進んだ北口選手。1投目にいきなりビッグスローを披露し65m80のシーズンベストを叩き出すとたきだし、いきなり首位へ。そのまま逃げ切り女子フィールド競技では初となる金メダルを獲得しました!!
Thank you Paris
未来への展望
北口選手の挑戦は、まだ終わっていない。2024年のパリオリンピックを見据え、さらなる進化を目指している。
「パリオリンピックでも金メダルを取りたいって言う気持ちはすごく強くなってますし、オリンピックのチャンピオンはまた1つ格が違うと思っています」と、北口選手は意気込みを語る。
前回の東京大会では、世界の強豪選手が放つオーラに圧倒されたという。しかし、世界選手権やダイヤモンドリーグで培った経験と実績を携え、今度は自身がそのオーラを纏うことを目指している。
「東京オリンピックで感じた、オリンピックのオーラっていうのを自分も身にまとえるようにしっかり準備したいと思っています」
北口選手の挑戦は、単に個人の記録更新にとどまらない。日本の陸上競技界、特に女子フィールド競技にとって、大きな希望の光となっている。「日本人で初めてのことをたくさんしたいと思っていた。歴史を1つ作ることができたと思っているので」と語る北口選手。その言葉には、後に続く選手たちへの強いメッセージが込められている。
「五輪のメダル獲得には最低でも65メートル、さらに金メダルとなればそれ以上の投てきが必要と考えている。」「パリで65メートル以上を投げたいし、やるからには金メダルを目指して頑張りたい」と北口選手は力強くコメントを残しています。
筋肉との対話を続け、常に進化を求める北口榛花選手。彼女の挑戦は、スポーツの世界に新たな可能性を示し続けている。パリオリンピックでの活躍が、今から大いに期待されます。